喜一郎(左右田喜一郎)なんて名前,今では経済学でも出てこないのかもしれない。
ジンメルの『貨幣の哲学』の解説本を読んでいたら,左右田喜一郎の『貨幣と価値』(もともとはドイツ語"Geld und Wert")がジンメルをかなり参照している旨の記述があった。そのなかで,「愛着価値」(Affektionswert)という概念が出てきていた。作用と対象が一体化して分離しがたい際に用いられている概念である。
…純然たる「愛着価値」(Affektionswert)の成立するは,対象の認識せられたる作用を評価するに当り,其の作用と対象とを相互に分離しては表象する能わざる場合に限る。そは対象の個別性に対する絶対的評価であり,これを概念的に考察せば,評価一般の最初の而して又最も単純なる階段である(左右田喜一郎著,川村豊郎訳[1928]196頁;旧字体は私に新字体に改めた)。
これって,かなり興味深い。左右田喜一郎がこの書を著したときは,むしろ「愛着価値」は旧態的なものであったのだろう。しかし,今ではむしろ,いかにして「愛着価値」を高めるか,あるいは確立するかが重要になってきているように思われる。脱コモディティ化戦略とは,まさにここにかかわっている。
こういったアイディアがたくさんいろんなところに眠っているような気がする。経営学史なり経済学史なり社会学史なり,学史という領域は,こういった鉱脈を探して現代に再生させることではないかと,真剣に思う。
ちなみにググってみたところ,経済学でも「愛着価値」に触れる人はほとんどいないようだ。田中秀臣という人(『AKBの経済学』という本を書いておられるらしい)がTwitterで2011年5月5日に触れていたくらい。
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