趣味の類

能を観ること

 産まれて初めて観たのは,10歳のとき。生駒・宝山寺の薪能で金春流『枕慈童』『舟弁慶』。雨天で畳敷きの大広間に割竹で能舞台をかたどっての上演だった。普通の能舞台と違って,かぶりつきで観れたこともあってか,その迫力に圧倒された。 装束のきらびやかさもさることながら,地謡の力強さが子供心にも強烈に印象を残したことを,今も鮮明に憶えている。

 

 その後,高校時代に京都観世会館で『富士太鼓』を観た記憶がかすかに残っているが,誰がシテだったかとかはさっぱり憶えていない。はっきり記憶しているのは,1996年2月25日に当時,室町四条にあった金剛能楽堂で,宇高通茂『箙』,金剛 巌『巻 絹』を観たとき。2階席から観たのだが,『箙』でのきびきびした所作や,『巻絹』での,老齢で足許もいささかおぼつかないながらも両手をヒラいた姿が妙に印象に残っている。あの当時の金剛能楽堂で舞台を観れたのは,今となっては貴重な体験だったなぁとつくづく思う。

 

 本格的に,観能に復帰したのは仕事に就いてから。2004年の2月であったか,新聞で大槻能楽堂自主公演の記事があった。淺見眞州『松山天狗』。久しぶりに,という軽い気持ちで観に行った。このとき観たのが,本三番目物じゃなくてよかったのかもしれない。復曲能でしかも早舞物,ストーリー的にもわかりやすいということもあって,「能もおもしろい」とあらためて感じた。それ以来,次第々々にはまっていった。

 

 東京まで足を延ばすきっかけになったのは,ワキ方下掛宝生流の野口敦弘主催の「華寶會」。そのときの演目は,佐野 萌『春栄』,友枝昭世『綾鼓』。後者のほうが目当てだったのだが,どうも満足できず,むしろ地味といわれる宝生流の舞台のほうが,なぜか印象に残った。その後,11月だったか,宝生会月並能で三川 泉『班女』があるというので観に行った。絶句もあって,それでもかまわず進んでいくのにびっくりしたのもあるが,もともと小柄なシテの可憐な姿も今なお記憶にある。それと,このとき初めて耳にしたのが,藤田大五郎。この月の別会能にも行き,高橋 章『遊行柳』に勁さを感じたりなど,「宝生流も,意外にいいなぁ」などと思うようになっていったのが,この時期。

 

 それを決定づけたのは,2004年12月にあった近藤乾之助試演会での番囃子『関寺小町』。最奥の秘曲といわれるこの曲が出るというので,観に行きたいと思い,チケットを頼もうと電話したら,「(能じゃなくて)番囃子ですよ」と確認され,一瞬「あ」と思ったものの,「せっかくだし」と思って,そのままチケットをお願いした。近藤乾之助という人については,小学生時代に購入した堂本正樹『世阿弥の演劇論』(NHK市民大学テキスト)の口絵写真に『松風』の舞台があって,名前だけは知っていた。あと,大槻能楽堂で開演を待っているときに,「近藤乾之助っていう人はいいらしいよ」てな噂話を耳にしたりもしたので,能じゃなくてもいいから行ってみよう,となった次第。

 そして,この番囃子が凄かった。謡と囃子だけなのだが,それだけで『関寺小町』の物語世界が立ち現われてくるような。これは凄い。この人は凄い。そこから近藤乾之助の舞台であれば,できるだけ観よう,そう思った瞬間だった。帰り,今はなき寝台急行『銀河』で興奮してなかなか寝つけなかったことも思い出。

文芸学 ―特に中世和歌―

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